あなたの中にブルックナーはいますか?・・高原英理『不機嫌な姫とブルックナー団』

クラシック音楽の読み物は、難解なものが少なくない。

ことば自体が馴染みの薄いイタリア語だったり、何を指しているのか分からなかったりすることが多いからだ。

演奏経験がないと、アダージョの意味を覚えたり、ハ短調とは何かを理解するのも困難である。

また、クラシック音楽は18世紀から20世紀前半にかけて西洋で隆盛を極めた民族音楽である。

歴史的な背景や知識が必要になるのも仕方がない。

そういうことを踏まえた上で、高原英理『不機嫌な姫とブルックナー団』は、僕みたいなクラシック音楽素人にも面白い読み物になっている。

 

『不機嫌な姫とブルックナー団』は、小説の中に「ブルックナー伝(未完)」というネット小説が入っている入れ子構造になっている。

そして、この「ブルックナー伝(未完)」がやたら面白い。

ブルックナーという人は、人間関係では空気を読んだりするのが苦手な小心者だったらしい。

それでも、長大な交響曲を沢山残した人らしく、芯の太さと粘り強さがあり、ワーグナーのような当時の楽壇の有力者になんとか取り入ろうとしたりする。

線の細いウィーンの才人たちの中にあって異彩を放つが、なんだか憎めない。

 

圧巻は、交響曲第3番の初演のシーンである。

ブルックナーはたいへん遅咲きの人で、この曲もワーグナーには認められた曲なのだけど、ウィーン・フィルにやる気がない。

指揮をとる小心翼々たるブルックナーと天下のウィーン・フィルの葛藤、というかほとんど苛めと、ブルックナーの弟子たち(マーラーとか)の混乱ぶりに笑いを堪えきれなくなる。

爆笑したあと、涙を拭いて、ああ面白かったと、そんな小説だ。

 

 

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村