あの人は、なぜあんなに知的体力があるのか?   西林克彦『わかったつもり〜読解力がつかない本当の原因』

自慢にもなりませんが、僕と出会い、すれ違っていった多くの友人、知人たちが、現在、研究職や専門職についています。

中には授業に1度も出ずに、試験の採点講評だけ聞きに来た大学の先輩とかもいて、すごいなと思ったりしましたが、単に図々しいだけだったのかもしれません。

彼、彼女らの一体どこが優れていたのか。

明らかにエネルギーのレベルが高い人もいますが、エネルギーはそんなでもないけど効率がめちゃくちゃいい人だっているし、外から見ただけでは、なかなか判断できません。

しかし、彼らがより深い知識や理解を得ていることは疑いようがありません。

あの人は、なぜあんなに知的体力があるのか。

そんな視点から西林克彦『わかったつもり〜読解力がつかない本当の原因』を読んでみたいと思います。

 

そもそも、文章を読んで「わかる」とはどういうことか。

著者の専門である認知心理学では、「部分間に関連がつくこと」だと説明されます。

また、人が文章を読んで理解するプロセスは、スキーマ(知識)を活性化させて、文脈を使っているのだといいます。

たとえば、「布が破れたので、干し草の山が重要であった」という文はどうでしょうか。

一読して意味がつかみづらい文ですが、文脈に「パラシュート」をあてると、理解可能だと思います。

このとき様々なスキーマを使っています。

パラシュートは破けると急速に落下することや、干し草の山はふわふわしていること、ふわふわしたものは衝撃を吸収することなどがそうです。

このように、すでにもっているスキーマ(知識)を活性化させたり、文脈をあてることで、文章は理解されます。

 

さて、「わかった」ときは、安定して落ち着いた状態です。

本を読みおわったときって、気持ちいいですよね。

しかし、本を一読してどれだけ理解したか確認してみると、ほとんど記憶に残っていなかったり、間違った理解だったということがあるかと思います。

「わかったつもり」だったと知って、がっかりします。

この本の主張は、その「わかったつもり」だと知ることが重要だということにあります。

「よりわかる」ためには、「わかったつもり」だと明確に知り、読みを深める必要があるからです。

 

知的体力という言い方からわかるように、本を読んで理解するのは結構しんどいです。

それは「わかる」のプロセスが、理解と破壊の繰り返しだからといえないでしょうか。

知識と知的体力を分けて考えると、「よりわかる」ことで知識は定着します。

一方、「わかったつもり」から「よりわかる」にいたる繰り返しの過程で、知的体力もついていく。

筋トレと同じことですよね。

知識を身につけているうちに、知的体力もついていく。

 

だから気分屋さんは大変です。

気分の悪い状態に自分を追い込むわけですから。

 

「よりわかる」になって、気分を回復しなければなりません。

では、どうすればいいのか。

認知心理学の知見によれば、文章を理解するときに、スキーマと文脈を使うのでした。

それにならって、2つの方針があるかと思います。

 

第1に、客観的事実をもっと調べていくという方向性があります。

これはスキーマをより充実させていくことです。

 

第2に、文脈を交換するという方向性があります。

先にあげた例文でいえば、「パラシュート」以外の文脈を見つけることです。

文章を読んで理解するとき、人それぞれ違った読みというのは可能です。

この『わかったつもり〜読解力がつかない本当の原因』という本だって、受験生が読むのと、社会人が読むのとでは、違った読みになるかと思います。

読者の主観であり、読みの力が必要になるところです。

自分は、どの文脈で本を読むか。

それを「解釈」といいますが、なんでもいいというわけではない。

「よりわかる」といえるためには、整合性が必要だと著者はいいます。

 

具体的には、

1.解釈は整合的である限り、複数あっていい。また、整合的である限り、解釈は保持される。

2.解釈は唯一正しいものではない。

3.不整合が明らかになった場合、その解釈は破棄されねばならない。

という解釈のルールを求めています。


なぜなら「よりわかる」のは、社会において、批判的に読み、記述するためであり、他者と理解を共有するためだからです。

 

知的体力は、ひとりでもつけることができます。

でも、他者と理解を共有しようとするとき、人はより力を発揮するのだと、友人、知人たちのことをまぶしく思い出しながら、考えるのでした。

 

わかったつもり?読解力がつかない本当の原因? (光文社新書)

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