峠のモーツァルト ピアノ・ソナタ第8番

モーツァルトのピアノ・ソナタ第8番を聴いていると、山の奥深くにある峠を走る車の中のことを思い出す。

今から30年も前のことである。

ぐねぐね曲がりくねった急カーブだらけの道を走ると、車の中は遠心力で人も物も外に投げ出されそうになる。

次のカーブが来そうになると、無意識のうちに身を固くして構える。

カーブでは遠心力の反対に体を預けて、なんとか体の平衡状態を維持しようとする。

急勾配の上り下りもあるし、窓の外を見れば深い谷底が口を開けている。

峠を抜けるまで振り回されっぱなしだが、無事抜けるとほっとする。

 

モーツァルトのピアノ・ソナタ第8番でそんな激しくドライブする感覚を味わうためには、グールドの演奏がいい。

速いテンポで進みながら、急に角度を変え、アップダウンしながら着地する。

第一楽章の印象はそんな感じだが、中でも最難関はグールドの演奏で1分20秒ぐらいの展開部から始まる。

左右に振られ、徐々に上っていきながら、頂点に達すると、ガクッ、ガクッ、ガクンと一気にエアポケットみたいに足下から崩れていく感覚は、一度聴くと癖になる。

 

このピアノ・ソナタ第8番が書かれた年に、モーツァルトは母親の死と恋人との別れを経験している。

あるいは、モーツァルトが馬車を飛ばして、母親の元に向かったことをインスパイアにしたということはないだろうか。

 

 

Glenn Gould Plays Mozart: the Piano Sona

Glenn Gould Plays Mozart: the Piano Sona

 

 

 

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